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高齢者と投資

2009年10月30日

 前政権発の「貯蓄から投資へ」というスローガンはかなり効いたようで、現在もまだ、「投資をしなければいけないのではないか」という強迫的な思いに悩まされる高齢者は少なくないようです。

 多くの高齢者が、資金運用そのものや投資に造詣が深くないことは、依然として「元本確保」「保証」といった言葉が付く投資信託・年金保険や、投資信託・外貨預金などの同時購入を条件に短期定期の金利優遇を提供するセット商品などが売られていることからもわかります。とりわけ、外貨(豪ドル)で元本確保を謳う投信が結構売れ筋である状況は、笑えない冗談としか思えません。

 また、「団塊世代の運用」とか「退職金の運用」といった触れ込みの下に展開される多くの「投資指南」「運用指南」は、その必要性や妥当性を十分に考慮に入れての話なのかという疑問(かつての筆者の自戒を込めての話でもありますが)を抱いています。そこでは、たとえば金利(を背景とする貯蓄型商品)というものがどの程度のインフレ抵抗力があるかといったことはあまり検討されているようには見えません。

 より大きな違和感を覚えるのは、それらの「指南」の中に、定年前後の入り口(投資のスタート)の話はともかく、ある程度の時間が経過した後についての言及がほとんどないことに対してです。たとえば、「投資」を成功に導く一つの大切な要素であるらしい「長期」スタンスは、高齢者ご本人にとっては、加齢とともに次第に無意味なものになっていきます。また、効果的な「投資」や「運用」を行うには「分散」が基本で、適宜リバランスが必要などと言われますが、そういう「本格的な」運用・投資は何歳ぐらいまで続けることができるものなのでしょうか。

 さらに、不幸にしてご本人が、運用上・投資上の判断をすることができなくなった際には、その投資商品はどうなるのでしょう。こういう状況に陥る可能性は若年層よりも高齢層のほうが大きいわけです。そして、そういう状態に陥ると、周囲の人がいくら気をもんでも、ご本人の意思確認ができなければ、その投資商品を動かすことが非常に困難になります。成年後見人が付けば、解約・換金はできるようですが、以後、預貯金や国債以外での運用・投資はできなくなります。

 無論、こういった問題には個人差があることは承知しています。しかし、少なくとも、筆者の身近な(元気で判断能力もある)高齢者のうちでは、そういう「本格」運用ができている例を見たことがありません。あまりにも無思慮・無責任ではないかと思います。要は、「指南」役の識者にしても、その背景に居ることの多い金融機関や投資商品販売者にしても、話題を提供できればいい、とりあえず商品が売れればいいということなのではないでしょうか。

 誤解を恐れずに言えば、増やすため・守るための「投資」など必要がない高齢者が非常に多いのではないかと思います。かなり多くの高齢者が退職金も含め大量の資金を蓄えています。その大きさが、「投資」で得られる運用効率を求めなくても、老後の生活を支えるに十分なケースはいくらでもあるように思われます。余裕資金は投資に回したほうがいいというもっともらしい誘引が盛んに行われているようですが、逆に考えれば、折角の「余裕」を、どういうわけで、危険に導く必要があるのでしょう。


「日経マネーDIGITAL」FP快刀乱麻より   (c)日経BP社 日経マネー編集部

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