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満足のゆく終焉

2008年10月16日

 友人の母上が突然旅立たれました。76歳。若すぎるという年齢ではないかもしれないけれど、クモ膜下出血で意識を失う直前までふつうの生活を送っていました。ピアノを教え、俳句を嗜んで、庭にやってくる鳥やネコを慈しみ…最近は孫の七五三を楽しみに準備する、平穏な日々だったのです。もっと健康に暮らそうと朝の散歩を始め、三日坊主にならないようにと寝床から出たばかりのことでした。こんなことになろうとは想像していなかったでしょう。しかし、意識は戻らないまま2週間後に息を引き取りました。

 お母上が生死の境をさ迷い一週間がたった頃、家族は医師からある選択を提示されました。「手術で出血を取り除く方法がある。しかし成功率は5~10%で、成功したとしても身体のマヒは免れない。ただし言語は戻るかもしれない。手術できるかどうか検査してみますか」というもの。倒れたときには「絶望的な状態で、手の施しようがない」と告げられていただけに、一筋の光が見えたような説明でした。でも、どうしたらよいのでしょう。家族には…何よりご本人にとってどうすれば幸せなのか。手術するかどうかはとても難しい選択です。

 同じ頃、喜寿を祝って間もない女性が亡くなりました。私の母の茶飲み友達です。彼女は、未婚の独り暮らしで子供もいません。ご自身が医師だったこともあってでしょうか、自分の最期について周到なまでの準備をしていたそうです。住まいはマンションの一階を選び、ドアは幅広にリフォーム。お棺が通るようにとの配慮。「主治医には延命治療は一切しないで欲しいと言ってあるの」周囲の友人たちにも日頃から話していました。脳に動脈瘤があることもわかっていて「いつ破裂するかわからない状態なのよ」と言いながら、愛読書や生活用品を仲間に分け始めて一年もたたないうちの他界でした。自宅で倒れているところを巡回してきたヘルパーさんに発見されたそうです。

 前述の、私の友人の母上は、熱が高く検査を受けることもままならなかったため、残念なことに、結局手術に至りませんでした。でも、もし手術できる可能性があった場合、私ならどう対応していたでしょう。言語が戻るかもしれないなら、寝たきりの余生だとしても手術に賭けたいのが心情でしょう。でも失敗したら、意識がないまま寝たきりの状態になる可能性や、目の前に迫った死をさらに早めることになるリスクもあります。しかも成功率は低い。そんな重大な決断を、本人の意識が戻らない以上家族がしなければなりません。少しでも回復を期待した治療ですが、「延命治療」するかどうかの選択を含めると、こうした決断を迫られる立場にたたされることは珍しくないでしょう。

 いうまでもないとは思いますが、「延命治療」とは臨終が避けられない末期の状態の生命を維持する為の医療処置のことです。しかし、たくさんの管がつながれた姿からも想像できるように、患者本人には大変な苦痛を与えることが想像できます。莫大な費用もかかります。家族には介護の問題もでてきます。また、いったん延命治療を始めたものの途中でやめたくなったらどうしたらよいか、精神的な負担を家族が負うことになります。医療の進歩によって、臨終をのばすことができるようになったものの、その捉え方には賛否があるのです。自分のときはどうしたいかと事前に問われたら、「延命はノー」と答える人が多いと聞きます。

 予期せぬ死と、寿命を感じながらの死では心構えがだいぶ違うでしょうが、亡くなるまでの時間の過ごし方や治療方法について自分がどんな形を望むのか、意思表示が必要な時代なのだということを改めて感じさせられました。そういえば、先日乳がん検診のために訪れたクリニックの問診アンケートの中に、「ガンとわかった場合の告知は誰にして欲しいか」「心のよりどころになる人は誰か」といった項目が設けられていました。病気の心当たりがあって受診したわけではなかったので一瞬びっくりしましたが、ここでもまた「死を感じた暮らし方」を意識させられました。「自分なら」を考えるとともに、自分の両親にも、人生の終焉を迎えるときの意思を確かめなければならないと思いました。ちょっと切り出しにくいはなしではあるのですが…。

筆者プロフィール
どぅ・きゃすと 魚住 由紀

「日経マネーDIGITAL」FP快刀乱麻より   (c)日経BP社 日経マネー編集部

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