

日本がデフレスパイラルの只中をさまよっていた2003年4月、日経平均はバブル崩壊後の最安値7607円(当時)をつけた。「安くなければ売れない」という消費スタイルが定着し、外食産業はまさにデフレの波に飲まれつつあった。客単価が減少し、売上、利益にマイナス影響を与える安売り合戦に、ほとんどの外食企業が苦戦していた。
そんな中吉野家は、各種ファーストフード店の価格競争に負けじと、牛丼1杯の値段は280円という破格の安価を実現。不況の中でも、2003年4月の株価最高値は17万4000円。業績は、売り上げ・利益ともに上々だった。しかし、安売りだけでは成長は見込めない。次の一手を模索していた矢先のことだった。
「あれは忘れもしない、2003年の暮れも暮れ、クリスマスイブのことでした。米国農務省が米国初のBSE発生を確認したという第一報が、社長のもとに届いたんです。年末の大納会まで、あと数日。とにかく早く対策を考えて発表しなければ、と無我夢中でした」
2003年、ヨーロッパ、カナダに次いでついに米国でもBSE問題が表面化したのだ。報を受けた日本政府は牛肉の輸入を一時ストップすると発表。牛肉を米国からの輸入に依存してきた吉野家にとっては、まさに死活問題となった。この報を受け、吉野家株は最終取引日、大納会では15万6000円まで急落。月間10%近い下落率となった。開けて04年1月30日まで、今後売上減少は免れないと判断され、株価は15万円まで下げ続けた。04年2月、牛肉の在庫が切れた吉野家はあえ無く牛丼の販売を停止した。
このように、時に企業は、様々な外部要因で業績・株価に影響を受ける。2008年11月25日、水産庁は「東大西洋と地中海でのクロマグロの漁獲枠が20%削減される」ことを発表。この報を受け、25日138円だったマルハニチロHDの株価は、28日には146円まで上昇した。同業の日本水産もマルハニチロHDと同様の株価の動きを示している。“マグロの輸入減”で、吉野家のように“株価下落”とならないのは、日本が必要としている絶対量にたいして需給が逼迫、価格上昇も予想されるから。状況により、影響の受け方も様々だ。


05年12月、日本政府は米国産牛肉の輸入禁止措置を解除すると発表。牛丼の販売再開が期待された吉野家の株価は23万5000円まで上昇した。しかし06年1月20日、米国から輸入された仔牛肉に、特定危険部位である脊柱混入が発覚し、再び日本政府は米国産牛肉の輸入全面停止を決定。これを報を受け、もはやBSE関連銘柄となっていた吉野家の株価は急落。3月3日には18万3000円まで売られ、ほぼ3ヶ月間で株価は5万円の下落となった。短期間での乱高下に、投資家たちが翻弄されたのは言うまでもない。
「牛丼の販売停止から、ほぼ3ヶ月ごとに“牛肉輸入再開!?”のニュースが流れました。しかし、そこはもうやせ我慢(笑)で。創業以来、牛丼の味を改善・継続してここまで来たんですからね。あの時は牛丼のことは忘れて、新メニューの改善に集中しました。ご存知の豚丼などは、今でこそ人気メニューのひとつになりましたが…… やっぱり最初の頃は売上げが半減しましたね」
もちろん吉野家も、再三流れる牛肉輸入再開のニュースに内心気が気でなかったはずだ。しかし、彼らが米国産牛肉にこだわり続けたことは周知のとおり。吉野家の牛丼は、トウモロコシや麦など穀物で育ったUSビーフをもとに設計されており、牧草で育ったオージービーフでは常連客の舌はごまかせない…… 客の信頼を裏切らないということは、1980年の倒産から学んだ一番大きな教訓だった。そして06年8月上旬、ようやく米国産牛肉の輸入が再スタート。9月18日、ついに吉野家に牛丼が帰ってきた。牛丼復活まで、実に950日間のブランクがあったことになる。一方このときの株価の推移を見ると、輸入再開・牛丼復活のニュース後も株価は緩やかに下落している。投資家たちも、今度は慎重だったようだ。2007年2月度の決算で、「営利約70%増」とのニュースを境にやっと株価は反転。1月の18万9000円から、4月には23万7000円まで上昇した。牛丼再開が、確実に吉野家の成長に結びついていることを、市場が認めた証と言えるだろう。
時期を平行して、株式市場でも牛肉輸入問題は一つのテーマとなっていた。「牛が駄目なら豚」と考えたのは、投資家も同じだったようだ。たとえば黒豚の飼育・加工を手がける「林兼(はやしかね)産業」は、米国でのBSE問題が露呈したことで株価がジワジワと上昇。04年1月に101円で取引を開始した株価は月末には120円に。牛肉輸入再開のメドが立たないというニュースが連日テレビ等で報道されていた04年10月、林兼の株価は125円でスタートした。その後じりじりと値を上げ、月半ばには一時179円まで上昇。10月末の終値は169円だった。月間の上昇率は35%を超え、売買高も1億9000万株に届く勢い。発行済株式の2倍以上という大商いとなっていた。

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