

国内のビール系市場でトップシェアを誇るアサヒ。しかし日本のビール市場は何年も前から「飽和状態」と言われ、さらに昨今の「少子高齢化」「アルコール離れ」などによる業界全体の停滞も否めない。今後の持続的成長を目指す次の一手とは?
「一度停滞期を迎えたスーパードライの売上げが、再度盛り上がり始めた1994年から、私たちは次のステージを見据え、海外市場への本格参入を始めています。北米市場では、カナダ・バンクーバーの工場でスーパードライの生産を開始。中国市場では、中国のビール会社に経営参加し、ビール事業の拡大を目指しました」 (現国際本部 副本部長 中井正史氏)
今後もこれまでどおりアサヒの株価の底堅さを維持し、株価上昇をもたらす成長路線を投資家に見せていくには、やはり海外進出が肝となりそうだ。トップブランドを持つ企業が海外に進出していった例として、『カップヌードル』を世界的なブランドとして確立させた『日清食品』を見てみよう。長い歴史を持つ日清だが、株式上場したのは84年1月。カップヌードルが海外進出を果たした10年以上も後のことだ。1000円からスタートした株価は、バブル期の盛り上がりとともに徐々に上昇し始める。その後、85年から87年7月にかけて中国に工場を持つなど、海外事業の拡大を続けた日清。その姿をマーケットは高く評価し、87年2月16日、終値で2200円だった株価は、一気に上昇に転じ、6月8日には、5700円という高値をつけた。しかしこのような急激な動きは、個人投資家だけの買いでは難しい。この動きには、機関投資家やファンド、年金基金など、海外勢の大量の買いが入っていることを示唆している。 “世界初かつ唯一無比”の商品を製造販売する日清食品だからこそ、世界から集中的な買いが入った稀な例かもしれない。
ゼロから市場を開拓していったカップヌードルに対して、世界のビール市場はすでに激しい競争の中だ。しかしこの十数年、新参者・アサヒはいならぶ世界の強豪相手に大健闘している。実際驚くべきことに、スーパードライは現在、中国をはじめとするアジア地域、さらに北米、欧州など世界各地で飲むことができる。ビールの本場欧州では、英国・ロンドンを中心に、約430店舗のパブで、その他の国の扱いを加えると1000店を超えるバーやレストランで舌の肥えた客たちに提供されているという。また、英国の識者と消費者が選ぶ“クールブランド”の一つにも挙げられた。それらはすべて、中井氏たちによる十数年来の努力の結晶だ。
「アサヒがイギリスで現地生産、と聞いて、ギネスに勝てますか? って、時々聞かれることがあります。ギネスは、イギリスではスペシャルな存在。私たちが目指すのは、彼らと共存することです。現地でバーに入ると、生ビールを注いでくれるカウンターには蛇口が5つくらい並んでいて、その蛇口の上にはプラスチックの銘柄プレートが取り付けてあります。目指すのは、常にそのプレートの中に『アサヒスーパードライ』があるという状態。ですから常にベスト5には入っていたい、というのが目標ですね」 (中井氏)

アサヒの欧州事業の歴史は、1998年、フランスやイギリスを中心とした市場調査から始まった。日本食ブームという追い風を受け、99年にはチェコでパートナー企業と組み、同年10月から、ヨーロッパ全土に向けてスーパードライの出荷を開始した。チェコはビール生産に欠かせない「ホップ」と「麦芽」の生産国として有名で、世界のビール会社がチェコから原材料を輸入している。アサヒにとってこの地に欧州初の拠点を置いたことは、原料調達に有利だっただけでなく、世界のビール事情の収集にも役立ったに違いない。チェコで欧州進出の足場を固めたアサヒは、以後05年に、英・ロンドンで現地生産を開始した。
投資的視点で言えば、「原油価格」や「穀物価格」、「金・銀・銅などの商品価格」の推移は、株価以上の注意度で、チェックが必要とされている。これらの価格が動くことで、“あっという間に”企業の利益が増えたり、また食われたりすることがあるからだ。07年からの原油の価格乱高下で、もっとも目に見えて苦戦した業界といえば、何と言っても航空業界だ。『日本航空』の株価と原油価格の推移を合わせて見てみたい。原油価格は07年年初、1バレル55ドルほどだったが、それ以降徐々に上昇を始め、翌08年6月、144ドルあまりまで上昇。対して「日本航空」の株価は、07年1月、212円からスタート。11/28には270円まで堅調に上昇した。しかし原油価格の異常な上昇に警戒感を示した投資家は、航空業界に弱気の意思表示をあらわし始め、以降株価は下落。08年7/11には211円まで落ち込んだ。通常これら原油や穀物の値動きは、安定していればそれほど気にすることもないのだが、急激なアップダウンを繰り返した昨年の例もあるので、株価プラス商品価格のチェックは、日頃からワンセットで行いたいものだ。
ビールメーカーにとっても昨年春以降の原油高は、本当に苦しいものだっただろう。ビールは重量のわりに価格が安価な商品だから、物流コストがどうしても高くついてしまう。加えて製造時に、醸造過程で大量の燃料を必要とするのだ。アサヒが現地生産にこだわるのは、アサヒらしく「鮮度が命」を貫こうとする姿勢の表れでもあり、こういった事態に対するリスクヘッジでもあり、コストコントロールでもあった。そして現在、アサヒの『スーパードライ欧州進出計画』は次のステージへと進みつつある。
「現地企業とパートナーシップを結び、生産から販売まで一括委任する。そこからのロイヤリティ収入が、これからの海外戦略には欠かせないと思っています。今回の円高のような為替リスクを考えても、今後は欧州、ロシア、中国、南米などでM&A後、現地企業とのジョイントベンチャーが加速度的に進んでいくことになるでしょう」 (中井氏)

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