

2000年秋、“上信越きのこ戦争”が勃発した。それは、雪国まいたけのライバル企業が、まいたけの生産を開始したことにより、暗黙の了解だった「きのこ栽培の棲み分け」が解消されたことに端を発したものだった。 「棲み分けについては、別に何かの協定を結んでいたわけではありません。ですから、いつこの“暗黙の了解”が破られてもおかしくなかった。実際、私もその不穏な動きを以前から察知していました。ですから、水面下では“ウチもライバル商品の栽培を始めよう”と、すでに画策していたわけです、実は」 2000年秋までは、ライバル企業はぶなしめじとエリンギを中心に栽培。雪国まいたけはその名の通り、まいたけを中心にきのこの栽培をしていた。お互いテリトリーを守り、それぞれ順調に利益を出していた。しかし現状の事業だけでは、今後企業としての成長は望めず、利益が頭打ちになるのが見えていたのも事実だ。 暗黙の了解が破られても、特に動揺することはなかった―― 大平はそう語る。しかし、実際ライバル企業のまいたけ生産を受けて、雪国まいたけの年間まいたけ出荷量は、翌年2万トンから1万4000トンまで、およそ30%減となった。 「その時は、生産調整により余分な製品を作らないことで、窮地を乗り切りました。生産を調整するということは、空き工場が出るということ。だから、空いた五泉バイオセンターで、ウチもぶなしめじの生産を開始しました。数年後にはエリンギにも参入したんです。年間1万トン生産できる工場を作ってね」 2004年には、東京ドーム2つ分の敷地を持つ第5バイオセンターを南魚沼市に新設し、ぶなしめじの生産・販売体制をより強固なものにした。トータルな品目で売上を伸ばそうとするその姿勢は、投資家にもインパクトを与えた。前週7月16日、476円で終了していた雪国まいたけの株価は、週明け7月20日、522円まで急上昇。1日の売買高も倍以上の43万株あまりという活況ぶり。1週間後の27日には706円まで値を飛ばし、売買高も136万9000株あまりという、かつてない盛況を記録した。

大規模な工場新設で、生産量・売上高増加に伴い企業価値も上がるはず――。投資家のほとんどはそう見ていた。しかし、生産競争による価格破壊が起こり、雪国まいたけは経営的に、さらに厳しい局面に立たされることとなる。 「価格破壊については、もちろん今も続いています。とは言っても、消費者の皆様にはスーパーに並ぶきのこの価格はそう変わっていないように見えているでしょう。しかし青果市場での売値は、ひどいときにはパック一桁の価格でやりとりされていましたからね」 大平の決断は、価格競争には一切乗じない、というものだった。商品として価値あるものを作っているのに、あそこまで安値で取引されるのは、きのこ総合企業としてのプライドが許さなかった。 「長いものですと、成長するのに約3ヶ月くらいかかるきのこを、正確に、需要に合わせた量だけ生産するのは難しいんです。もちろん、長く冷蔵保存して出荷時期の調整をすることだって、技術的には可能ですよ。しかし、きのこの生命線は香り。鮮度が下がって、香りも質も失った商品を売るのは、私たちのポリシーに反します。だから、必ず廃棄処分となる製品が出てくる。もちろん余ったものは、乾燥させたり加工したり、できるだけ無駄にしない努力をします。ですが、やっぱり作ったものの約1%、200億円生産したら、2億円は廃棄処分となる。私たちはそれを見越して、美味しい安全なきのこだけを、なるべく適正な価格で消費者に届けているんです」 2008年10月22日現在の雪国まいたけの株価は357円。好調だった時期のわずか半値程度だ。しかし、価格競争を止め、品質や安全管理への徹底によって他社との差別化を図ろうとしている姿はよく見える。とはいえ、やはり状況は厳しい。昨今の金融危機の影響もあるが、消費者の財布のヒモは固いままだ。食費を切り詰めていこうとする動きはしばらく続いていくだろう。


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