企業の買収防衛策と株価と海外の投資家の関係
2008年07月09日 企業価値や株主利益を守るための買収防衛策、ところが外国人投資家を中心に反対の声が!株価にも影響を与えているようです。
今年の株主総会は?
3月決算企業の決算発表も株主総会も、ひととおり終了したと思います。今年も昨年に引き続き、株主総会で決議の上、買収防衛策の導入を予定する企業が多く見受けられました。買収防衛策を導入する上場企業は500社を超えたものとみられます。
その一方で、2006年に買収防衛策を導入した資生堂は、今年の定時株主総会で期限切れとなる買収防衛策を継続せずに廃止すると発表しました。
買収防衛策を新たに導入する企業も多い一方、いったん導入した防衛策を廃止する企業も現れてきている今、買収防衛策の持つ意味や、株主や投資家に与える影響について考えてみたいと思います。
買収防衛策って具体的には?
買収防衛策にはいくつかの方式がありますが、日本の上場企業で最も一般的に導入されているのは、「事前警告型ライツプラン」と呼ばれるものです。これは、有事の際に新株予約権の無償割り当てを行って、濫用的買収者(※)の持ち株比率を下げ、買収を防止するものです。
(※)ここでの「濫用的買収者」とは、「企業価値や株主利益を高める目的ではなく、それらを毀損してまでも自らの利益を優先して、取得した株式を高値で転売すること等を図る買収者」と定義します。
今年の株主総会を持って期限切れとなる資生堂の「事前警告型ライツプラン」の概要は次のようなものでした。
・定時株主総会にて、新株予約権の無償割り当てに関する事項を取締役会が決定する権限を有することにつき、株主の承認を得る。
・20%以上の議決権所有を希望する投資者につき、独立委員会がその投資者を「濫用的買収者」と認定すれば、ライツプラン(新株予約権の無償割り当て)が発動される。「濫用的買収者」には、割り当てられた新株予約権を行使する権利が与えられないため、保有株式の希薄化により、濫用的買収者の持ち株割合を低下させることができる。
こうした買収防衛策の主目的は、「濫用的買収者」から企業を防衛し、企業価値の毀損を防ぎ、株主利益を損なわないようにするためである、とされます。
防衛策はするべき?するべきではない?
ところが、欧米の機関投資家を中心に、「企業は買収防衛策を導入すべきではない」という意見が強まっているのです。
例えば、欧米の有力年金や運用会社が5月15日に行った、日本企業のコーポレートガバナンスに関する提言によれば、買収防衛策は廃止すべきとしています。
その理由として、買収防衛策発動の可否を決定する独立委員会の人選を経営陣が行っており、結果的に経営陣に有利な決定が行われる可能性があることを挙げています。
2007年夏、ブルドックソースと投資ファンドスティール・パートナーズとの間で繰り広げられた買収の攻防戦は記憶に新しいところです。このときブルドックソースが実際に発動した買収防衛策が司法の場で適法と認められたことや、地裁においてスティール・パートナーズを濫用的買収者と認定したことは、特に外国人投資家にとってはショッキングに映ったようです。
外国人投資家や外国企業の中には、魅力ある日本企業を買収したいと考えている人たちも数多くいます。そして法律面からも、2007年5月から解禁された三角合併の制度により、外国企業が日本企業を買収しやすくなりました。
ところが、ブルドックソースの買収防衛策が適法とされたことや、スティールを濫用的買収者とみなされたことで、自分たちも買収をしようとすれば、濫用的でなく企業価値を高めるつもりの買収を目指していても、同じように「濫用的買収者」とされてしまうのではと、日本企業を買収することのハードルの高さを感じてしまったようです。
ブルドックソースの買収攻防劇のあと、日本の株式市場では株価が大きく下落しました。もちろん、サブプライムローン問題を発端とした金融不安、景気悪化懸念から、全世界的に株価は下落しました。しかし、日本株の下落率は諸外国と比べても大きいものであり、筆者自身もまさかここまで下がるのか、と驚くほどの激しい下げ方でした。
この理由の1つとして考えられているのが、外国人投資家の日本株からの引き上げです。つまり、「外国人や外国企業による日本企業買収の活発化→買収されていない企業も含めて企業価値向上が期待→株価上昇」というシナリオを見込んでいた外国人投資家が、思惑が外れて日本株を売却した、ということです。
このように、特に外国人投資家からは評判のよくない日本企業の買収防衛策ですが、私たち個人投資家は、投資先企業を選ぶ際、企業の買収防衛策の有無についてどのように考えればよいのでしょうか。
一概に、どちらがよくてどちらがダメ、と言い切れないのが実情ですが、少なくとも、買収防衛策を導入しない企業のほうが、特に外国人投資家からの評価は高まる傾向にある、ということはいえそうです。
小手先の防衛策ではなく本質を!
究極の買収防衛策は、自社の経営効率を改善し、業績を向上させ、企業価値ひいては株価を上昇させることです。
確かに買収者の中には濫用的買収者もいるかもしれません。しかしながら、過度な買収防衛策をとることで、自社の経営を改善して企業価値を高めると期待できる買収者までをも閉め出すことになりかねません。
外国人投資家の目からは、買収防衛策を導入する企業は、仮に現経営陣の経営能力の欠如により本来の実力を発揮できず低業績に甘んじていたとしても、買収によって経営が劇的に改善して企業価値が向上する、という流れが期待できないと感じているのではないでしょうか。
買収防衛策を導入しない企業は、いうなれば「買収されない自信がある企業」です。現経営陣が自らの手で業績を向上させ企業価値を上げる自信があるということです。
もちろん、買収防衛策を導入している企業の多くも、企業価値を上げるため日々努力をしているでしょう。ただ、買収防衛策を導入していない企業のほうが、買収に対するプレッシャーが強い分、企業価値向上のためにより一層の努力をしてくれることを期待できます。
最近は、買収防衛策の導入や、他社との株式持合いを発表した企業の株価が下落するケースも目立っています。他方、買収防衛策廃止を決めた資生堂の株価は、(株価上昇の理由は買収防衛策廃止だけではないにしろ)4月30日の2,495円から、翌5月1日には2,630円へと5%以上も上昇しました。
少なくともマーケットでは、買収防衛策を導入せず、自力で企業価値を上げ、買収を阻止する、そんな企業が求められているような気がします。
今年の株主総会は?
3月決算企業の決算発表も株主総会も、ひととおり終了したと思います。今年も昨年に引き続き、株主総会で決議の上、買収防衛策の導入を予定する企業が多く見受けられました。買収防衛策を導入する上場企業は500社を超えたものとみられます。
その一方で、2006年に買収防衛策を導入した資生堂は、今年の定時株主総会で期限切れとなる買収防衛策を継続せずに廃止すると発表しました。
買収防衛策を新たに導入する企業も多い一方、いったん導入した防衛策を廃止する企業も現れてきている今、買収防衛策の持つ意味や、株主や投資家に与える影響について考えてみたいと思います。
買収防衛策って具体的には?
買収防衛策にはいくつかの方式がありますが、日本の上場企業で最も一般的に導入されているのは、「事前警告型ライツプラン」と呼ばれるものです。これは、有事の際に新株予約権の無償割り当てを行って、濫用的買収者(※)の持ち株比率を下げ、買収を防止するものです。
(※)ここでの「濫用的買収者」とは、「企業価値や株主利益を高める目的ではなく、それらを毀損してまでも自らの利益を優先して、取得した株式を高値で転売すること等を図る買収者」と定義します。
今年の株主総会を持って期限切れとなる資生堂の「事前警告型ライツプラン」の概要は次のようなものでした。
・定時株主総会にて、新株予約権の無償割り当てに関する事項を取締役会が決定する権限を有することにつき、株主の承認を得る。
・20%以上の議決権所有を希望する投資者につき、独立委員会がその投資者を「濫用的買収者」と認定すれば、ライツプラン(新株予約権の無償割り当て)が発動される。「濫用的買収者」には、割り当てられた新株予約権を行使する権利が与えられないため、保有株式の希薄化により、濫用的買収者の持ち株割合を低下させることができる。
こうした買収防衛策の主目的は、「濫用的買収者」から企業を防衛し、企業価値の毀損を防ぎ、株主利益を損なわないようにするためである、とされます。
防衛策はするべき?するべきではない?
ところが、欧米の機関投資家を中心に、「企業は買収防衛策を導入すべきではない」という意見が強まっているのです。
例えば、欧米の有力年金や運用会社が5月15日に行った、日本企業のコーポレートガバナンスに関する提言によれば、買収防衛策は廃止すべきとしています。
その理由として、買収防衛策発動の可否を決定する独立委員会の人選を経営陣が行っており、結果的に経営陣に有利な決定が行われる可能性があることを挙げています。
2007年夏、ブルドックソースと投資ファンドスティール・パートナーズとの間で繰り広げられた買収の攻防戦は記憶に新しいところです。このときブルドックソースが実際に発動した買収防衛策が司法の場で適法と認められたことや、地裁においてスティール・パートナーズを濫用的買収者と認定したことは、特に外国人投資家にとってはショッキングに映ったようです。
外国人投資家や外国企業の中には、魅力ある日本企業を買収したいと考えている人たちも数多くいます。そして法律面からも、2007年5月から解禁された三角合併の制度により、外国企業が日本企業を買収しやすくなりました。
ところが、ブルドックソースの買収防衛策が適法とされたことや、スティールを濫用的買収者とみなされたことで、自分たちも買収をしようとすれば、濫用的でなく企業価値を高めるつもりの買収を目指していても、同じように「濫用的買収者」とされてしまうのではと、日本企業を買収することのハードルの高さを感じてしまったようです。
ブルドックソースの買収攻防劇のあと、日本の株式市場では株価が大きく下落しました。もちろん、サブプライムローン問題を発端とした金融不安、景気悪化懸念から、全世界的に株価は下落しました。しかし、日本株の下落率は諸外国と比べても大きいものであり、筆者自身もまさかここまで下がるのか、と驚くほどの激しい下げ方でした。
この理由の1つとして考えられているのが、外国人投資家の日本株からの引き上げです。つまり、「外国人や外国企業による日本企業買収の活発化→買収されていない企業も含めて企業価値向上が期待→株価上昇」というシナリオを見込んでいた外国人投資家が、思惑が外れて日本株を売却した、ということです。
このように、特に外国人投資家からは評判のよくない日本企業の買収防衛策ですが、私たち個人投資家は、投資先企業を選ぶ際、企業の買収防衛策の有無についてどのように考えればよいのでしょうか。
一概に、どちらがよくてどちらがダメ、と言い切れないのが実情ですが、少なくとも、買収防衛策を導入しない企業のほうが、特に外国人投資家からの評価は高まる傾向にある、ということはいえそうです。
小手先の防衛策ではなく本質を!
究極の買収防衛策は、自社の経営効率を改善し、業績を向上させ、企業価値ひいては株価を上昇させることです。
確かに買収者の中には濫用的買収者もいるかもしれません。しかしながら、過度な買収防衛策をとることで、自社の経営を改善して企業価値を高めると期待できる買収者までをも閉め出すことになりかねません。
外国人投資家の目からは、買収防衛策を導入する企業は、仮に現経営陣の経営能力の欠如により本来の実力を発揮できず低業績に甘んじていたとしても、買収によって経営が劇的に改善して企業価値が向上する、という流れが期待できないと感じているのではないでしょうか。
買収防衛策を導入しない企業は、いうなれば「買収されない自信がある企業」です。現経営陣が自らの手で業績を向上させ企業価値を上げる自信があるということです。
もちろん、買収防衛策を導入している企業の多くも、企業価値を上げるため日々努力をしているでしょう。ただ、買収防衛策を導入していない企業のほうが、買収に対するプレッシャーが強い分、企業価値向上のためにより一層の努力をしてくれることを期待できます。
最近は、買収防衛策の導入や、他社との株式持合いを発表した企業の株価が下落するケースも目立っています。他方、買収防衛策廃止を決めた資生堂の株価は、(株価上昇の理由は買収防衛策廃止だけではないにしろ)4月30日の2,495円から、翌5月1日には2,630円へと5%以上も上昇しました。
少なくともマーケットでは、買収防衛策を導入せず、自力で企業価値を上げ、買収を阻止する、そんな企業が求められているような気がします。
公認会計士・税理士・AFP 足立武志
提供:株式会社FP総研
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