ネット時代のマーケティング担当者に捧ぐ、ソーシャル海の泳ぎ方

郷好文の“うふふ”マーケティング:

 マーケターにつらい時代になった。

 例えば“ステマ”。受け手に宣伝だとさとられないように宣伝するステルス(見えない)マーケティング。クチコミサイトのやらせ事件が発覚して「ふざけんな」といった反応もあったが、★の数と実際に味やサービスの関係に「?」な店も多く、「やっぱりね」「そんなもんだろ」という冷めた見方が大勢を占めた。

 みんなの感想とは違うかもしれないが、筆者は「マーケティングも落ちたもんだ」と思った。

●素人を動員したあげく、だませずにバレるとはね……

 売るための活動であるマーケティングは、そもそもステマと言えなくもない。バレるかバレないかはプロが作り上げる虚像の完成度であり、それがブランドという蜃気楼を実体に見せて、AIDMA(アイドマ、広告宣伝での消費者の心の動き)という錬金術プロセスを完遂する。昔はやらせもプロの仕業だったのだ。

●AIDMA(アイドマ):

ある商品を購入するまでの消費者の心の動きのモデル。Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の段階を踏むという。

 ところが「素人を動員して、だませずにバレる」とは……。ずいぶん安っぽくなったもんだ。まあ分からなくはない。素人も玄人も全員参加、リアルもバーチャルも入り乱れて打ち手が複雑になった。仕掛けても“調べあげて”ステマを見抜く。

 広告もつらい。“神売れランキング”も“今すぐ愛される”といった女性誌のコピーも響かない。時代を変えた「おいしい生活」や「恋は、遠い日の花火ではない」などの名コピーが出てこないせいもあるが。販促イベントや新店舗オープンもつらい。仕掛けのイベントでウチワだけ盛り上がり、取材記者の「好意的な」記事でおしまいとかね。

●おいしい生活:

1982年、西武百貨店の広告で使われたキャッチコピー。作者は糸井重里さん

●恋は、遠い日の花火ではない。Old is New.:

1994年、サントリーウイスキーオールドのCMで使われたキャッチコピー。作者は小野田隆雄さん

 眼前にあるのはソーシャルという魔の海だ。そこでは「いいね!」を瞬時に広めてくれる一方、「なにそれ」も波紋で広まる。主役はネットを俊敏に泳ぎまわる消費者であり、ライターもマーケターも顔色をおうかがいしている。

 まさに「マーケターはつらいよ」。消費者の主役ぶりをWebマーケティングから見てみよう。

●Webの向こう側の消費者心理

“レビュー”マーケティング

 見かけはクチコミ、実は強力なマーケティング。代表例はAmazonのレビュー。私たちは帯文句より、献本に応じて書かれる書評より、素人レビュアーのホンネを信じる。リアルの本屋の店員の手書きのPOPに「店員の声なら」とほだされてしまう。

“この指とまれ”マーケティング

 ネットクーポンは短期間に買い手を集める巧妙な販促である。だがクーポンの本質は路上でチラシを配るのと同じ。最初はお得でも2回目は正規料金だ。巧妙に立ち回る消費者は「お得な1回目だけ参加」して、リピートなんかしない。

 「9時から販売しますよ〜!」のタイムセールや「みんなで注文すれば安くなる」共同購買も苦戦中。最近はサービス(例えば岩盤浴)や体験商品(例えば旅行)にシフトしている。ブツ欲には限りがあるし、「限定品」か「残りもの」か消費者の目は鋭いからだ。

“あおり”マーケティング

 代表例はネットオークション。本来はセリで高値になり、胴元がもうかるはずだが、いつの間にかヤフオクは相場価格で売買される“不用品売買市場”になった。あおられない賢い消費者が見えてくる。